OUR ART. OUR SITE.

東北芸術工科大学卒業/修了研究・制作展2006

「そして、アートがあふれる|卒展2006総合ディレクター総括」 宮島達男

総合ディレクターとしての最大のチャレンジは、まず運営サイドの感動のチャンネルを開き、モチベーションを高めていくことだった。ベネチアビエンナーレやカッセルのドクメンタなどの国際美術展では、スタッフに上下の関係はない。指示系統のバワーバランスで成立する組織運営は、人々のイマジネーションを低下させるからだ。ことアーティスティックな催しにおいて、私たちはこうした人々の感情の表れにとても敏感に反応する。もちろん、そこに展示される作品も。だからまず、展覧会に関る人全員が、あるテーマと成功のビジョンを共有する必要がある。そして、どんなポジションであっても自分の役割以外のことであっても実践していく献身的なワークが重要だ。
出展者はもちろん、それをサポートするボランティアや事務局スタッフも含め、すべての人に内在しているアート的なるもの(=ART IN YOU)を、この卒展という場で発揮させていくこと。これはア−ティストとしての私のテーマでもあった。そして2006年の卒展のテーマ、それは「OUR ART. OUR SITE.」。山形での学びと、この空間にプライドを持とうと呼びかけ、建学以来、はじめての施設全体での卒展開催を実行した。結果は、キャンパス内・全17会場の総入場者数がのべ20,000人と、展覧会としてはこれまでの数字を大幅に上回り、大成功に終わったと言っていい。

展示空間としての設備が整った美術館から、学生たちにとってプライベートなアトリエや実習室へと展示会場を移すことの意味を問う、今日に至るまでの膨大な議論。これは、学科コースの枠組みをこえた、人・作品・情報の循環性を発生させた。美術館からキャンパスへ。展示スペースは拡充し、それに伴って作品が大型化する。アトリエや実習室の「制作現場」のリアリティが、作品や研究成果の印象をよりフレッシュに際立たせる。
SITEと作品の関係性を意識しながら、そこでしか産まれ得ない作品や発想が、見る者に感動を与える。学生たちの作品は、まだ若い私たちの大学の、はじめてのチャレンジへの戸惑いを大きく超えていった。創造の現場は、出会いの場所にかわり、交流の中から、15年間の溜まった感情が押し流されるように、山形の地に、アートがあふれた。

全国の美術大学で通常開催されている「卒展」のほとんどは、自分たちの大学の中で、自分たちの作品を確認するような内部向けのプレゼンテーションである。だが、本学における卒展は、「外部の方たちをキャンパスに受け入れる」という意識を明確に打ち出し、サイン計画やガイドブックの作成、駐車場管理や周遊バスの運行など、一般来場者にキャンパス内をくまなく見てもらうための細やかな配慮を心がけた。仙台でも、東京でも、借り物の美術館でもない、東北芸術工科大学にいる自分たちをアピールしていこうという想いが、出展された作品や研究成果はもちろん、100名をこえるボランティアスタッフの自発的な働きからも感じることができた。
来場者用のツアー企画や、本館1Fの大スクリーンを活用しての映像中継(クリエイターズ・マイク)なども効果的に作用し、大学全体に躍動感があふれる。出展者の顔はプライドに満ちている。展示に訪れた人たちが何を思ったか? 人々は学生の自発的な活動と、作品の発する自信に満ちたエネルギーに驚きを隠そうとはしなかった。

大学では、学内だけで様々なことが成立しがちだ。しかし今回、はじめて外部のジャッジも含めた賞の選考会が公開されたり、移動型ギャラリートーク企画『カフェ@ラボ』や、シンポジウム『21世紀のデザインとアートはどこへ向かうのか?』など、外部の学識者を交えてのディスカッションを数多く開催した。客観的な視点を受け入れていくことが、グローバルな視点で本学の取り組みや作品を捉え、各専門領域の枠組みを横断して「今、東北でアートやデザインを学ぶこと」の真価を問う、知的な熱気を生み出したことも良き経験であった。
表現というのは「内なるものを押し出す力」のことだ。それは見て、聞いてくれる人がいて初めて発生する創造的な力や関係である。エゴを排し、他者の痛みに想像力を働かせながら、ポジティブなクリエイティビティーを発揮していくこと。まだまだ課題は多いが、少なくともそれが真のクリエイトであることを、この卒業/修了研究・制作展で私たちは知ったのだと思う。
[現代美術家/東北芸術工科大学副学長・デザイン工学部長・卒展2006総合ディレクター]
(採録=美術館大学構想室)

580名の出品学生全員によるプレゼンテーション画像中継プロジェクト『クリエイターズ・マイク』

工房に設置された新関俊太郎(工芸コース4年)の作品『父に買って貰った鉄』

上:580名の出品学生全員によるプレゼンテーション画像中継プロジェクト『クリエイターズ・マイク』
下:工房に設置された新関俊太郎(工芸コース4年)の作品『父に買って貰った鉄』

Copyright © 2009 Tohoku University of Art & Design, All Rights Reserved.