建築?環境デザイン学科を卒業し、株式会社土屋ホームに勤務している成田綾乃(なりた?あやの)さん。一級建築士になるという夢をかなえ、震災後の住宅設計やモデルハウス設計などの経験を積み、現在は全支店の設計チェック、業績管理を担当しています。住む人の感覚を大切に、自然に機能する空間づくりをしている成田さんに、大学で学んだこと、社会に出て学んだことについてお話をお聞きしました。
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建築は男の仕事? 想いを貫いて芸工大へ
――建築士になりたいと思ったきっかけを教えてください
成田:私が小学生のときに両親が家を建てたんですが、ハウスメーカーの担当の方がすごくきれいでかっこいい女性だったんです。一級建築士の方で、私もあんな風になりたいと思ったのがきっかけです。高校進学のときは、インテリアや建築が学べる県立の工業高校や、国立高専を受験しようとしました。ただ、親が進路を早く決めすぎるのはよくないという考えで、普通の進学校に行って、進路の選択肢を広げるように言われました。医療系に進んで薬剤師になる、という進路を示されたんですが、あまり気が進まなかったです。小さな頃から住宅のチラシを集めて、間取りをスクラップするくらい建築に興味があったので、高校進学後も気持ちは変わりませんでした。
――建築?環境デザイン学科に進学するときも苦労されたのですか?
成田:そうですね。母が猛反対していました(笑)。「建築って男の人の仕事じゃないの」と。男の人がヘルメットをかぶってする仕事というイメージが強かったみたいです。あとは、結婚後、出産後に医療系の方が復帰しやすいんじゃないか、とか。
ただ、父が芸工大設立のときに業者として関わっていて、理解があったんです。東京から有名な先生を呼んで、工学的ではなくデザイン的な建築が学べるらしい、という話を聞いたようで、「いいんじゃないか」と言ってくれました。
私もその話を聞いて、自分がやりたいのは建築のデザインだという自覚が生まれて、高校の美術の先生に相談して。先生から「AO入試というのがもうすぐあるから今すぐ申し込みなさい」と言われて、そこから試験まで1カ月くらい絵のパースなどを指導してもらいました。母には試験の前日まで内緒にしていたので、すごく怒られましたが、なんとか話し合って納得してもらいました。必ず一級建築士になること、という条件を付けられてしまいましたが。
――今や一級建築士として、立派に活躍されていますね。お母様も応援されていますか?
成田:そうですね。働きながら一級建築士を目指すのはかなり大変でしたが、なんとかやり遂げました。私が一級建築士の試験に合格すると、母は親戚中にそのことを電話していたので、「あれだけ反対したくせに!」と思いましたね(笑)。
――あまり準備期間がないまま入学が決まりましたが、入学してみていかがでしたか?
成田:初めてキャンパスに入ったときは、「夢」のある場所だなという印象を受けました。オープンキャンパスに参加した他の大学とは明らかに違っていて、不思議な感じというか。デザイン工学というのも他にはない特色でしたし、おしゃれな雰囲気だなと思いました。
授業が始まると、絵を描くのが苦手だったので、1年生の夏くらいまでは大変でした。周りのみんなは上手なのに私は全然描けなくて。でもあれだけ親に言ったんだから、と頑張りましたね。秋ぐらいからは、住宅の設計とかCADの授業が始まって、そこからは生き生きしていたと思います。
――芸工大で学んで良かったと思う点は?
成田:今になって思うのは、課題に対する先生たちのコメントが、感じ方や空間体験など、ニュアンス的なことが多かった点です。古い市営住宅を建て替える課題に取り組んだ際も、実際にその場所に行って、住んでいる人に「どんな住宅があったらいいと思いますか?」と直接聞きながら考えていきました。積極的にコミュニケーションを取らないと課題が進まないので、あの時は、なぜこんなことをしないといけないのかと思いましたが、今の私の仕事のやり方に確実につながっているなと思います。
予算や実用性よりも先に、感覚的に居心地がいい場所をつくることを大切にする姿勢は、大学の課題で叩き込まれたのかなと。住宅をつくるとき、動線などはもちろん大切ですが、人が動く場所とくつろぐ場所を明確に区切るのではなく、その家で暮らす人が、なんとなく自然にそうなるように意識しています。
――現在の仕事に役立っていることはほかにもありますか?
成田:私はよく「すごくコミュニケーション上手だね」と言われるんですけど、もともとは知らない人と話すのが苦手だったんです。大学では、必ず自分の作品についてプレゼンしなくてはならないので、その面で鍛えられました。自分の思い入れなどを言うのが恥ずかしくて、本当に何回やっても慣れなかったです。でも卒業するまでにはなんとかできるようになり、仕事で初対面の人と会っても、生活の仕方など家づくりに必要なことをうまく聞き出せるようになりました。
社会に出ると、コミュニケーションを取る機会は本当に多くて。現地調査に出かけたとき、近所のおじいさんに「ここに家建てるの?」と話しかけられ、「そうなんですよ。お父さん、お家どこですか?」「あそこだよ」「わぁ、立派なお家ですね」みたいな感じで話が弾んで、リフォームの発注をいただいたこともありましたね(笑)
山形は、おじいさん、おばあさんが多くて、いろいろな人と話しやすい環境だったのも良かったんじゃないかと思います。学生の時に、芸工大前にある公民館の建て替えの課題があって、現地でスケッチしていると、散歩中のおじいさんたちが来て「芸工大生か?」と声をかけられたことがあって。「この集会所はどういう時に使うんですか?」と聞くと、気軽に答えてくれるんですよね。あの感覚は今でも現場に行ったときに生かしています。
――住む人、使う人の声を聞いてニュアンスをつかんでいくことが、成田さんの強みになっているんですね
成田:具体的な生活の聞き取りは大切にしています。聞いても理解できなかったら、実際にやってみることもあります。パソコンでオンラインゲームを趣味にしているご夫婦の住宅をつくるときには、自分でもゲームをやってみて、Wi-Fiだと回線が弱くて全然使えないということがわかったりして。有線をリビングの真ん中にどうやって持っていくかを考えたりもしました。
感覚やニュアンスを大事にする部分は、社内ですごく評価されている部分だと思っています。任された秋田のモデルハウスは、そういった部分を全面に出したものになりました。注文住宅を売る際に企画案を10パターン作ったんですが、至る所に「過ごしやすさの提案」を盛り込んでいたんですね。上司が気付いて「感覚的にやっているね」と言ってくれたので、改めて自分の建築を見直すと、他の人と比べて癖があるなぁ、と(笑)。それを別の上司に話したら、そういう要素をモデルハウスに盛り込んでみたいいんじゃないかと言われ、秋田のモデルハウスができました。動線などを意識せず、この場に人が立ったらどう感じるか、というスペースを多く作ったモデルです。自分のスタイルに気付いて、初めて形にできた案件でした。
家とは、暮らしとは。一人一人の思いを乗せて家をつくること
――建築士として成長していくなかで、印象に残っている仕事はありますか?
成田:東日本大震災で被災された、石巻のおじいさんとおばあさんの家をつくったことです。高齢のご夫婦だったのですが、津波で2階まで浸水してしまい、ベッドの上で震えながら助けを待っていたんだと、涙ぐみながら話してくれました。仮設住宅は換気もなっていないような劣悪な環境で、早く家を建ててあげたくてしかたなかったです。完成した時は、あんなに泣いて喜んでくれた人はいないくらい、喜びの声をいただきました。
被災された方々は住む所をなくしている状況で、打ち合わせをしていても「ああしたい、こうしたい」という夢や希望は出てこないんです。ただ快適に住みたい、という一心です。こちらから提案することもありますが、お金をかけられない状況の方もいます。新築した家を津波に流された方には「こんな無駄なスペースを提案して」と言われたこともありました。家を建てるということはそれだけ重い、ということが強く感じられた経験です。上司とも話し合って、私たちは無駄なく安心して暮らせる家をつくらないといけない、と思いを新たにしました。
――心が揺さぶられるお話です。今後、このような仕事をしていきたいという展望がありましたらお聞かせください
成田:今期から本社の技術部に配属になり、全支店の設計をチェックしたり業績管理をするようになりました。実際にお客さんに向き合うことは少なくなりますが、支店を通してより多くの方に私の建築を提案できるのではないかと考えています。基本的な住宅機能の良さはもちろんのこと、建築設計事務所にオーダーするのと近い感覚で、その人だけの空間をつくり、「ハウスメーカーってこんなこともできるんだ」というところも提案していきたいですね。
――では最後に、芸工大を目指す方にメッセージをお願いします
成田:他の大学でどんな授業や課題を出してるかはあまり分かりせんが、芸工大は、人を好きになる、人と関わることを大切にした4年間のカリキュラムになっていると思います。それは学内だけではなく、地域や外部も含まれています。まちづくりを考えるために商店街の人々から聞き取りをしたり、同じサークル同士で、東京の大学と関わりがあったり。そういった経験は、社会人になってからどんな仕事に就いたとしても、すごく役立つと思います。
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住む人、使う人の声を聞きとり、体感したことをベースに建築を考えるカリキュラムで、建築士としての土台を築いた成田さん。先生たちの丁寧なフィードバックが建築士としての感性と提案力を育みました。成田さんの信条は、誰よりも時間をかけ、最高のプランができるまで考え抜くこと。今後もより多くの人に快適で長く住み続けられる住まいを提供するため、その力を発揮していきます。
(撮影:瀬野広美 取材:上林晃子、企画広報課?須貝)
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