第6回 君の本まで|本棚からひとつまみ/玉井建也

コラム

 大丈夫だぜ、一人で楽しめばいいじゃないか。と気楽に考えているのは世代が違うからかもしれないし、若者の当事者性から距離を置けるようになってしまったからなのかもしれない。

 私が大学生になり、愛媛から東京へ上京したときは、とにかく一人で都内をめぐるのが楽しすぎて、雑誌でしか知らなかった中古CD屋めぐりをしたり、個人のウェブサイトで公開されていた都内の古本屋情報をもとに沿線で途中下車したりしていた。特に大学1年生の秋ぐらいからブックオフが進出してくると店舗ごとにカラーが違うのに気づいて、週に数回は訪れるヘビーユーザーになっていたものである。全盛期には「このレーベルだと、この本とこの本が貴重だけど、この棚にはない」とスキャニングするようにざっと見て把握して、次の棚、次の棚と移動して短時間でどれだけ見られるかに挑戦していたのだが、あのときの集中力と知識と行動力は今は失われて久しい。

 もう一つ足を運んでいたのはライブハウスで、学生なのでとにかく金がなくて、名前を知らないバンドの安いチケットを買ったり、ときたまアジカンなど有名なバンドのライブを見に行ったりしていた。ここらへんは中古CD屋めぐりの延長線上であって、それほど熱心ではなかったのではあるが、今から考えると足しげく通っていたのかもしれない。そのうち音楽事務所から電話がかかってきて「今度ライブがあるので、ぜひ来てください」と言われて、売れないバンドは本当に大変だと思ったものである。

玉井建也 #06 岡本健?松井広志編『ポスト情報メディア論』書影
岡本健?松井広志編『ポスト情報メディア論』(ナカニシヤ出版、2018年)

 さておき論考で書かれていたバンドマン自身がメディア的な活動をしていく点と、メディアを活用していく側面はきちんと『ぼっち?ざ?ろっく!』にも描かれている。バンドマン自身がライブハウスでの噂話から先輩たちの成功話や失敗話、そして現状の情報を得ていくほんのわずかなシーンも描かれるわけだし、何より彼女たち自身の演奏によりお客さんを飽きさせたり振り向かせたりする状況は、単なるライブパフォーマンスとして受け取るだけではなくメッセージの発露だと考えることもできる。そしてネットメディアを活用しながら発信されるキラキラしたイメージと実際との落差もまた、メディアの活用の一側面ではある。

玉井建也 #6 桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』(秋田書店)と『文芸ラジオ』7号書影
桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』(秋田書店)と『文芸ラジオ』7号
玉井建也 #06 結束バンドアルバム『結束バンド』 ジャケット
結束バンドのデビューアルバム『結束バンド』

 しかし危険なのは、皆さんが書いてくるレポートを見ると陰キャでぼっちなところが良いという評価ばかりなところである。もちろんその点は非常に重要であり、特に否定するわけではないが、それだけで主人公性が成立しているわけではない。芸工大の文芸学科として創作者側に回るのであれば、共感した部分だけを表面的に、そして部分的になぞったところで、それは主人公足りえない。『ぼっち?ざ?ろっく!』の後藤ひとりが主人公なのは、マイナス面だけに彩られているだけなのではなく、ぼっちとしては様々な異常値を示している要素が存在しているからである。

 最後は愚痴のようになってしまったが、この2月は「卒業制作展」と「冬のストーリー創作講座」が開催された。多くの高校生の皆さんも足を運んでくれて、楽しんでいただけたかと思う。文芸学科はぼっちでも陰キャでも、もちろん陽キャでも、スクールカーストのどの位置にいるかは関係なく受け入れる。というより既存の自明だと思っている価値観へ疑問を持つことを当然としているので、何も気にすることなく来てほしい。次は春のオープンキャンパスが開催されるので、創作講座に参加された人はもちろん、参加していない人も書いた作品(小説でもマンガでも)やプロットを持ってきてほしい。ぼっちで来てもいいじゃないか。

(文?写真:玉井建也)

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玉井建也(たまい?たつや)
玉井建也(たまい?たつや)

1979年生まれ。愛媛県出身。専門は歴史学?エンターテイメント文化研究。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(文学)。東京大学大学院情報学環特任研究員などを経て、現職。著作に『戦後日本における自主制作アニメ黎明期の歴史的把握 : 1960年代末~1970年代における自主制作アニメを中心に』(徳間記念アニメーション文化財団アニメーション文化活動奨励助成成果報告書)、『坪井家関連資料目録』(東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センター)、『幼なじみ萌え』(京都造形芸術大学足球比分|直播_皇冠体育-篮球欧洲杯投注官网推荐出版局 藝術学舎)など。日本デジタルゲーム学会第4回若手奨励賞、日本風俗史学会第17回研究奨励賞受賞。
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