“内”と“外”の相乗効果で生まれる地域活性。「まちづくり」の教員視点で見る、山形ビエンナーレ/コミュニティデザイン学科?森一貴専任講師

インタビュー

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ビエンナーレ2024
山形ビエンナーレの蔵王温泉エリア出発点となる、蔵王温泉バスターミナル

地域の人たちとともに、変化を起こす

――そもそも、芸術祭を観光資源として捉える考え方は以前からあったものなのでしょうか?

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お話を伺った森一貴先生(コミュニティデザイン学科専任講師)

森:今回、この蔵王温泉での山形ビエンナーレに訪れてみて、そのサイズ感にすごくしっくりきたというか。歩いて巡ることができる、いい規模感ですよね。ここには土地と文脈との対話があると感じました。アートイベントとしてはめずらしいですよね、“ことば”が主軸になって道をつくっているというのは。

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元々蔵王には「蔵王文学のみち」という、斎藤茂吉の歌碑が建立されたルートが整備されている。今回のビエンナーレは蔵王?斎藤茂吉にインスピレーションを受けていて、この歌碑のルートに沿うように展覧会が設計された

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早速、蔵王温泉エリアの会場である「丸伝」を訪れたところ、今回の山形ビエンナーレの総合キュレーターである小金沢智先生に遭遇。お話を伺いました。

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バスターミナルから進み、最初に見えてくる屋内会場「丸伝」。1階と2階でそれぞれ展示が行われた
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「朝——生まれ、目覚める」 アーティスト:池上恵一
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「朝——生まれ、目覚める」 アーティスト:山本桂輔

※稲花餅(いがもち):蔵王温泉名物の和菓子

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総合キュレーターの小金沢智先生(美術科日本画コース専任講師)
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「蔵王うたのみち」 アーティスト:伊藤紺 デザイナー:平野篤史 / 蔵王温泉案内板?下枠部分
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「蔵王うたのみち」 アーティスト:前野健太 デザイナー:平野篤史 / 上の台ゲレンデ

――ここまで文学を主軸にした芸術祭はめずらしいのでは?

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森:あと、この丸伝のようにその土地のリソースみたいなものを使うってすごく大事ですよね。やっぱり開くことによってそこを使っていた方とか持ち主の方が、「あ、昔こうだったよな」っていうのを思い出したり、あるいは訪れた人が「ここ、いいじゃん。え、普段は空き家なんですか?じゃあ僕借りたい」みたいなことがめちゃくちゃ起こったりするので。

小金沢:あと、蔵王はどうしてもウィンタースポーツや樹氷をはじめとする冬の印象が強く、冬に来たことがあっても、春や夏のグリーンシーズンには来たことがないという方もとても多い。でも、蔵王は古くから「高湯」と呼ばれていたくらい高地ですから、山形市内と比べても気温が数度低く、夏場でも涼しくて、なにより温泉があります。ビエンナーレを機に、夏の蔵王の過ごしやすさや楽しさも知っていただけたらと思います。

会場?作品紹介動画:【のぞいてみよう!】みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2024

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温泉街の展示作品を巡った後、蔵王温泉にあるカフェ「音茶屋」さんにてお話を伺いました

――先ほど小金沢先生がおっしゃっていたように、歩いているとふと作品が現れるような展示の仕方になっていますね

森:日常性の強さを感じますよね。蔵王温泉で開催するのは今回が初めてですから、これだけ協力してもらえているのはすごいことだと思います。コミュニティデザインの視点で考えるなら、今後アーティストの方々と並び立つようにして、住民の方々がやっているプロジェクトがもっと見えてくるとおもしろいな、とも感じます。

――地域の中に入っていく時、一番大事になるのはやはり直に話すことでしょうか?

森:やっぱり、顔も知らない人たちが突然家のそばで何かをやり始めたら嫌ですよね。結局は顔が見えている信頼関係みたいな話だと思っていて、さっき小金沢先生と話した時、「蔵王に住みたいくらいだ」とおっしゃっていたんですが、そういう誠実さって大切だと思うし、逆にそういったことが見えてこないと、まちの人も「いいぞ、やれ」とは言えない。ただ、蔵王温泉の場合は観光地としてもともと人を受け入れる下地があるので、そういう意味では受け入れやすい場所なのかもしれません。

――またフィールドの規模感というのも大事になってきそうですね

森:とっても大事です。「蔵王温泉」みたいに範囲を定めると勢いをつくっていきやすくて。昔、話を聞いて面白かったのが、プールのような大きい水槽に黒いインクを1滴落としても何の変化もないけれど、小さいお猪口みたいなものに黒いインクを落としたら変化が分かるっていう。まさにその通りで、小さい範囲だからこそ、そこで起きた1個の変化がインパクトを生んで、「あ、なんか変わったな」と感じられる。
実はその感覚ってすごく大事で、変化が生まれたって気付くと、みんなの中で「じゃあ、変化を起こそう」っていう機運が高まっていくんですよ。そういう意味では、狭い範囲の内側で、さらにリソースも文脈もある蔵王温泉のような場所はすごく面白い空間になると僕は考えています。

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気付きから生まれるアイデンティティ

――森先生は普段、福井県鯖江市を拠点にさまざまなプロジェクトに関わっていらっしゃるそうですね

森:鯖江市というのはものづくりのまちで、眼鏡をはじめ漆器や繊維などで知られているんですけど、そういったところの工房を開いて、産業観光という形でイベントを開催した経験があります。そんなふうにものづくりとかアートを観光資源にして、外から人が来てくれることでまちが潤う“外に向けた”観光資源という考え方があります。

――その土地の魅力を掘っていくきっかけにもなるのでは?

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蔵王温泉 高湯通り。この通りで山形ビエンナーレの多くの作品が展示された

――そういったイベントで得た賑わいを持続していくことも大事になりそうですね

森:山形ビエンナーレにはそうやって別の視点を持ち込んでくれるという側面があるわけですけど、例えば夏の蔵王というのもそのひとつで、「上の方に来ると涼しい」とか「おしゃれなカフェとかもあって滞在できそう」とか「200円で温泉入れて安っ!」みたいなことに今回気付いた人たちっていると思うんです。そこから今後、日常の中でも「今日は蔵王に行っちゃおうかな。ビエンナーレの時、良かったし」みたいなことになっていって、新しい移動経路のようなものをつないでいくことができるんじゃないかなと。

でも、それもまだまだ表層的で、やっぱり本質的なところで言うと丸伝みたいに新しいリソースを開くことで「この場所使えるんだ」ということに誰かしら気付いて、「じゃあここで何かやってみよう」といった動きにバトンパスされて変化が生まれていくことがすごく大事だと思っています。普段、まちって介入する余地がなかなかないので、どうやって触ったらいいのかが分からなかったりするんですけど、こうやってアートイベントを行おうとすると、まちを開いていくという行為が出て来たり、作品を置かせてもらえるよう交渉する中でその場所の所有者が明らかになってくる。
それが大きなリソースだと思っていて、そういったプロセスの中で情報が可視化されていくことにすごく価値を感じます。この景色を見る中で、地域の人たちの中に「夏も来てくれてなんだか嬉しいね」みたいなものがじんわり広がっていって、そこから「実はあそこにも空き家があるから使ってほしいんだよね」みたいな話が地域の内側から出てくるようになると、そういう変化がやがて大きなうねりになっていくんじゃないかなと思います。

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「蔵王うたのみち」 アーティスト:伊藤紺 デザイナー:平野篤史 / 上湯共同浴場の手すり
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「暗闇から立ち上がる全ての人たちへ」 アーティスト:金子富之 / 酢川温泉神社

――普段コミュニティデザイン学科の学生には、「まちづくり」についてどんなことを伝えていますか?

森:まちにはいろんな役割がいるべきで、自らプレーヤーになる人がいてもいいし、何かを始めていく人をサポートする右腕みたいな人がいてもいいし、環境を整えて後押しするような人がいてもいい。まちに必要な役割って全然ひとつじゃないから、自分ができる役割をコミュニティデザイン学科の中で見い出していけるといいんじゃないかなと思っています。ちゃんと自分の役割を見い出す、自分の得意な分野を見い出す、自分のやりたいことを可視化していく。そしていろんな羽ばたき方ができるような場づくりができたらいいなと考えています。

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――最後に改めて、今回の蔵王での展示から感じたことを教えてください

森:今回の山形ビエンナーレは斎藤茂吉と現代の歌人が絡み合っていたり、蔵王の歴史みたいなものが今と接続されていたり、そういういろんな時間の重なり合いがあるんですね。そういった絡み合いを引き受けた形で、今後も何らかのアクションが蔵王で起こっていったらすごく面白いんじゃないかなと思います。
歌は“ことば”だからこそ、過去に飛ばすこともできるし、全然想像していなかった景色に紐づけることもできるし、ここから飛んでいくこともできる。そういう存在なんだろうということを感じながら会場を歩くことができました。

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「まちづくりにとって大切ないろんな文脈の可視化と絡み合いのようなものを、山形ビエンナーレはつくっているんじゃないかな」。そう話していた森先生。今回のようなイベントをきっかけに、静かに佇むだけだった空き家が人の集まる場所へ変化したり、埋もれていた歌碑が発掘されて再びその良さに注目が集まったり、オフシーズンと思われていた時期こそ快適に過ごせる土地だということに気付いたり―。そうやって新たな形でまちの魅力が形成されていく面白さや可能性のようなものを、森先生と会場を回ることで感じ取ることができました。

(撮影:法人企画広報課 取材:渡辺志織)

森一貴 専任講師 プロフィール

小金沢智 専任講師 プロフィール

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