山形市半郷に並んで建つ、ミツバチガーデンカフェと庭園喫茶錦。どちらも美味しいパンケーキが食べられることで知られる人気店です。その両店舗のオーナーを務めるのが、グラフィックデザイン学科卒業生の山川まどか(やまかわ?まどか)さん。小さい頃からお菓子づくりが大好きで、次第にカフェを開くことが目標になっていったと言います。そして、その夢を叶えることができた山川さんが今何を思い、また大学時代の学びがその夢をどう後押ししてくれたのかお聞きしました。
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喜んで食べてくれるみんなの顔が見たくて
――はじめに、普段のお仕事の流れについて教えてください
山川:朝起きたらインスタグラムを更新してメールをチェックして、あとは従業員さんと一緒にお掃除したり仕込みをしてからカフェ業務に入るという感じですね。カフェの中ではパンケーキをつくったり、接客したりという基本的なことをしています。
あと週1回だけ早く起きて、山形県倫理法人会というところの経営者勉強会に参加しています。地域の企業の社長さんとかが集まるので、そこで情報収集したり。やっぱりカフェにつきっきりで外に出ないでいると、本当に女王蜂のように“私が偉い”みたいになって周りが見えなくなっちゃうといけないので(笑)、外に出て自分の位置を知るというか、なるべく刺激を得られるようにしています。
――カフェを開きたいと思い始めたのはいつ頃から?
山川:もともとお菓子をつくるのが趣味で、幼稚園ぐらいからずっと母と一緒につくっていたんですね。休みの日はもちろん、学校がある日もつくって持って行ったりしていて。そうやって日常的にお菓子をつくっていたこともあって、大学の時にはもう「カフェを出したい」と思ってました。お菓子屋さんじゃなくてカフェが良かったのは、食べて「美味しい」って喜んでいる人の顔を見るのが好きだったから。母がいつも素朴なおやつをつくっていたので、私も毎日食べられるシンプルなお菓子をつくりたいと思って、お店のメニューをシンプルなパンケーキと家庭的なスコーンとチェリーパイの3種類にしました。ちなみに『しろくまちゃんのほっとけーき』という絵本が私のパンケーキの原点になっています。
――開店に向けて、どんなことに取り組みましたか?
山川:まずは接客を学ぼうと思い、大学を卒業してすぐ蔵王のホテルに就職しました。そこで主人と出会って結婚したんですけど、家を建てようか、って話になった時、主人の祖父の古い家が残っていることを知って、「建てるならカフェを建ててほしい」ってダメもとで言ってみたんです。そしたらなんか盛り上がっちゃって(笑)。主人はお土産の卸しの会社をしてるんですけど、もともとは花農家で、「みんなに見てもらえるガーデンをつくりたかったから、ガーデンカフェにしよう」ということになって。そこから私もホテルを退職して、カフェで修業しながら準備を進めて、2014年にミツバチガーデンカフェをオープンすることができました。最初は「こんな住宅地じゃ、分かりにくくてお客さんが来ないのでは?」と心配されることもあったんですけど、皆さんSNSとかを見て来てくださって、軌道に乗るのはわりと早かったと思います。
――そこから2店舗目の庭園喫茶錦をオープンすることになった経緯は?
山川:主人が「昔、おじいちゃんが鯉を飼っていたからもう一回飼いたい」と言って、自宅の池を整備したんですね。でも自宅でしか見られないのが私にはもったいなく感じて、「こっちも和風のカフェにしたい」って言ったらすごく反対されて。主人としては自分で楽しむためのものだったし、借金もすることになってしまう状況だったので。それでも「頑張ります!やらせてください!」って猪突猛進に自分の思いだけでオープンさせたら、すぐにお金がなくなってしまって…。それで給料も下げるしかなくなって、従業員さんに説明したらみんな一斉に辞めてしまって、その頃が一番つらかったですね。
最初はおはぎとかき氷の店として始めたんですけど、おはぎは注文が入ってもなかなか単価が伸びないし、かき氷は季節商品だしというところで、おはぎはもうスパッとやめました。そしてせっかくパンケーキがあるんだったら、ということで和風パンケーキに切り替えたんですね。そしたら「錦でもパンケーキが食べられる」ということでお客さんが来てくれるようになって。本当にパンケーキに救われました。経営状況が悪かった頃は私も毎日不安で仕方なくて、みんなのことを怒ってばかりいたので、従業員さんは誰もついていきたいなんて思えなかっただろうな、って。だから「私だけはどんなにつらいことがあっても明るくいよう」と心に誓いました。
――そういったいろんなことを経験された中で、今改めて大切にしていることは?
山川:以前は何かあると人のせいにしてしまうことが多かったんですね。例えば従業員がお皿を割ったら、「何やってるんだ、気をつけろ」ってすぐに怒ったりして。でも、自分のお店や会社の中で起きたことは100%私が悪いって考えるようにしたら、すごく働きやすくなったんです。それまでは“お皿が割れた”という結果だけを見て怒っていたのを、“ここにお皿を置けば割れない、だから従業員は悪くない”と、起きた原因の方に視点を変えて考えるようにしたら、問題解決が早くなったというか、改善のための糸口が見えるようになりました。
それから、常にゴキゲンでいることも大切にしています。やっぱり機嫌良くつくったパンケーキからは機嫌良い気が出ていると思うし、ゴキゲンなのってみんなにも伝染するので、今は従業員含めとても良い空間になっていると思います。あと2店舗目の時の反省を踏まえて、企業理念もつくったんです。それをいつも従業員と一緒に読み上げて共有しているんですけど、企業理念が壁に貼ってあるだけで、どんなに忙しくても“お客様に喜んでもらう”というところに立ち返ることができるんですよね。
お菓子をつくって提供することも“デザイン”
――ところで、芸工大に進学しようと思ったきっかけは?
山川:地元が山形市なので学園祭とか学食とかに行く機会が結構あって、中学生の頃にはすでに「すごい自由で楽しそう!羨ましい!私もここで楽しみたい!」と思っていました。学科は特に決めていませんでしたが、山形工業高校の情報システム科から芸工大へ進んだ先輩がいて、「山形工業に入れば芸工大に入れる!」と思って私も山形工業に進学して(笑)。あとは芸工大の近くにある保育園に勤めていた母が、芸工大生を大好きだったことも影響していたりします。
――グラフィックデザインを学ぶ中で、特に印象に残っていることはありますか?
山川:やっぱりグラフィックっていうとみんなデザイナーになるようなイメージがあったので、飲食系に進んでしまっていいのかな?と、自分の進路に自信が持てないでいたんですね。そんな時、中山ダイスケ(なかやま?だいすけ)先生※1が「自分がつくったパンケーキを最高の状態で食べてもらうにはどうすれば良いか。そのお客様の口に入るまでを考えるのもデザイン。だからどんな道に進んでも大丈夫だよ」と言ってくださって、それにすごく背中を押されました。
また、卒業制作でクッキーをつくりたいと考えた時も、そのことを澤口俊輔(さわぐち?しゅんすけ)先生※2に伝えたら、グラフィックデザインの学科なのに「面白いじゃん!」って言って受け入れてくれて、ちゃんと作品になるように導いてくれました。それで私もすごくやる気を出すことができて。最終的にイチゴのクッキーを使った参加型インスタレーション作品に仕上げたんですけど、そういったことは芸工大でしか無理だったんじゃないかなって思っています。先生方がすごく一人一人の個性を見つけようとしてくれていたというか、見つけられるように促してくれていたと改めて感じますね。
※1:本学学長。グラフィックデザイン学科教授。詳しいプロフィールはこちら。
※2:本学グラフィックデザイン学科教授。詳しいプロフィールはこちら。
――これから先に向けて、何か思い描いていることなどあれば教えてください
山川:ここ数年、乃し梅本舗 佐藤屋さんとコラボして、のし梅のパンケーキとかかき氷を出してるんですけど、のし梅って実は夏バテに良いとか、出羽三山巡りで持ち運びする時に日持ちするよう、乾かして寒天で固めて竹で挟んだとか、当たり前に食べているけど知らないことって結構多いんだな、と感じて。私、地元のことが大好きなんです。なので、そうやって地元のものとコラボレーションしたりしながら、その良さをみんなに知ってもらうきっかけをつくれたらいいなと思っています。
――最後に、芸工大を目指す受験生へアドバイスをお願いします
山川:一つは、自分の強みを知ることですかね。学校の課題でも遊びでも真剣にやってみると、いろんな人と関わる中で自分の強みとか価値観が分かってきて、そうすると自分が持っているものを活かせる場所というのも分かってきて、そこで動くだけでみんなに喜んでもらえるし、自分も嬉しくなれるし―。それってすごく面白いことだと思うんですよね。
それからもう一つは、信じること。ま、「信じるぞ」と思ってもなかなか信じられなかったりするんですけどね(笑)。なぜ信じられないのかと言うと、その人のことをあまりよく知らないから。大学にはいろんな人が集まってきます。そこで誰かと一緒に何かをする時、その人のことを知ろうとすればするほど信じられるようになっていくし、そこに信頼関係が生まれると、やれることってすごく増えていくと思うんですね。そのためには相手の話を聞くのもすごく大事。そうやって誰かと一緒に何かを一生懸命やるだけで、自然と見えてくるものがあるんじゃないかなと思っています。
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「やっとここで食べられたね」「明日も仕事頑張れるね」。お客さんがそう言いながら食べている姿を見ると、明日への活力に貢献できていることを感じ、とても幸せな気持ちになれるという山川さん。嬉しいことも辛いこともたくさん経験してきたからこそ、感謝の思いを持ってお客さんや従業員一人一人に寄り添うことができているのだと感じました。そんな山川さんの手から生み出されていくお菓子にこれからも要注目です。
(撮影:布施果歩、取材:渡辺志織、入試課?須貝)
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