
梅雨前線北上中
山形では、つい数日前までストーブが必要だった。なのに、もう夏が来たかのような暑さの日もあるようになった。季節の移り変わりの早さに驚いて、ちょっと狼狽えて、身体がそれについていけていない???。もうすぐここも梅雨か。九州の一部はすでに梅雨入りした、と先ほどラジオで聞いた。

雨が降るすこし前くらいになると、カエルの大合唱が始まる。カエルは、目に見えない空気の微妙な変化を感じ取っているのだろう。見えない何かを感じて信じる力、カエルにはそれがある。すごいなあ。そんなわけで今回は、カエルが歌う曲を聴きましょう。
偉大なカエル
このコラムが始まって以来、カエルが歌う曲を取りあげるのはこれがはじめて。きっとこれが最初で最後だ。で、登場するのは、敬愛するジョン?レノンに並ぶ偉大なカエル、そう、カエルのカーミット(Kermit the Frog)である!

まあ、正確には、このカーミットをはじめとした『セサミ?ストリート』の生みの親であるジム?ヘンソン(Jim Henson, 1936-90)がその声を担当しているのだけれど、とにかく、カーミットは尊敬すべきカエルなのだ。かつて一度、英国オックスフォード大学で講演もしているくらいだ。

$1.75という当時の値札が付いている
レコード盤はカエルの緑色
カーミットが歌うのは、映画『マペットの夢みるハリウッド(The Muppet Movie)』の主題歌であり、ビルボード?チャートで最高25位にもなった“Rainbow Connection”という1979年の曲。

映画に登場するキャラクターが勢揃いしている
バンジョーで弾き語るカーミットがとにかくかわいいのです。
信じる力
この曲でカーミットは、虹、星、希望という言葉の連想を起点にして、信じる力の大切さについて説いている。曲を聴けば、ただの憎めないかわいいカエルと見せかけて、実は、非常に深い哲学的思考を備えた偉大なカエルなのだということがわかるでしょう。
Why are there so many songs about rainbows?
どうしてこんなたくさん 虹の歌がある?
And what’s on the other side
あと、虹の向こうに何があるって歌とかも
Rainbows are visions, but only illusions
虹は未来図、けど、ただの幻想
And rainbows have nothing to hide
虹はそれ以上でもそれ以下でもない
So we’ve been told and some choose to believe it
そう教わってきたし、そう信じてる人もいる
I know they’re wrong, wait and see
でも間違いだよ そのうちわかるよ
Someday we’ll find it
いつかボクたちは見つけるよ
The rainbow connection
虹のつながりを
The lovers, the dreamers and me
恋人たちと、夢見る人たちと、そしてボクとのつながりを
いつか、虹のつながり(the rainbow connection)が生まれ、ステキな世界が広がっていくといいな、そんなカーミットの願いが歌われてこの曲はスタートする。虹は、ただの光の屈折現象に過ぎないとかんがえる人もいるし、そこに特別な意味を見いだす人もいる。もちろん、カーミットは後者。カーミットらしく淡々とほのぼのと、けれど説得的に、この願いの理由が次に歌われる。
Who said that every wish would be heard and answered
誰が言ったんだろう 朝の星に願いをかければ
When wished on the morning star?
願いは聞いてもらえるし、叶うって?
Somebody thought of that, and someone believed it
それは誰かの思いつきで、それを誰かが信じて
Look what it’s done so far
こんな感じになってきたんだね
虹の次に登場するのは朝の星である。星に願いをかける風習も、最初は誰かの思いつき。けれど、それが人を動かす大きな力になるのなら、十分に効果のある行動だと言えましょう。
What’s so amazing that keeps us stargazing
すごいのは、それでボクたち、星を眺めつづけてるんだ
And what do we think we might see?
それで、ボクたちは何を見つけると思ってるんだろう?
Someday we’ll find it
いつかボクたちは見つけるよ
The rainbow connection
虹のつながりを
The lovers, the dreamers and me
恋人たちと、夢見る人たちと、そしてボクとのつながりを
All of us under its spell
ボクたちみんな 呪文にかけられてる
We know that it’s probably magic
きっとそれは魔法なんだよ
呪文は、よく言えば「魔法」であるとカーミットは言う。なにかを信じることが持つ力の大きさを知っている点では、カーミットはカエル界のジョン?レノン、この曲はカエル界の「イマジン」と言っても過言ではない。
Have you been half asleep
ウトウトしてるときに
And have you heard voices
声を聴いたことはある?
I’ve heard them calling my name
ボクは自分の名前が呼ばれるのを聞いたよ
Is this the sweet sound that calls the young sailors?
これって 若い船乗りを呼ぶ誘惑の声?
The voice might be one and the same
あの声と同じものなのかも
I’ve heard it too many times to ignore it
ボクはそれを無視できないほど何度も聞いたんだ
It’s something that I’m supposed to be
そんなふうにボクはなるべきなんだ
この「若い船乗りを呼ぶ誘惑の声(the sweet sound that calls the young sailors)」にピンと来た方もいるかもしれない。これは、船乗りを美しい歌声で誘惑したあげく、水底に沈めてしまうギリシャ神話の半人半鳥セイレーン(Siren)への言及である。英語で“Siren Call”といえば、潜在的な危険をはらむ魅惑的な誘いのことだ。

ちなみに、身の回りでもっとも身近なセイレーンといえば、シアトル発のあの珈琲屋さんのロゴである。19世紀アメリカ文学の名作、メルヴィルによる『白鯨(Moby-Dick; or, The Whale)』の登場人物の1人、コーヒー好きの航海士スターバック(Starbuck)からの連想が、お店のインスピレーション源というのは知られた話だ。
Someday we’ll find it
いつかボクたちは見つけるよ
The rainbow connection
虹のつながりを
The lovers, the dreamers and me
恋人たちと、夢見る人たちと、そしてボクとのつながりを
カーミットが聞く声、それは危険な誘いかもしれない。けれど、夢を追うときには、危険や困難は付きもの。危ないからといって、夢を追わないという選択はないのだ。ビビる心を夢を信じる力が上回らなきゃ、何も達成できないよ、という熱い情熱を秘めたカエルのカーミット、やっぱり偉大である。

そろそろ山形も梅雨の季節。けれど、雨のあとには虹が出る。梅雨はうっとうしいとはいえ、雨が降らないと美しい虹も見ることはできないのだ。そんなことをカーミットは再確認させてくれる。
それでは、次の1曲までごきげんよう。
Love and Mercy
(文?写真:亀山博之)
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#かんがえるジュークボックス(第1回~第30回)

亀山博之(かめやま?ひろゆき)
1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。
著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。
趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。
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