第31回 かんがえるカエル~カーミットの巻|かんがえるジュークボックス/亀山博之

コラム

梅雨前線北上中

 山形では、つい数日前までストーブが必要だった。なのに、もう夏が来たかのような暑さの日もあるようになった。季節の移り変わりの早さに驚いて、ちょっと狼狽えて、身体がそれについていけていない???。もうすぐここも梅雨か。九州の一部はすでに梅雨入りした、と先ほどラジオで聞いた。

クルマの窓にやってきたカエルくん
クルマの窓にやってきたカエルくん

 雨が降るすこし前くらいになると、カエルの大合唱が始まる。カエルは、目に見えない空気の微妙な変化を感じ取っているのだろう。見えない何かを感じて信じる力、カエルにはそれがある。すごいなあ。そんなわけで今回は、カエルが歌う曲を聴きましょう。

偉大なカエル

 このコラムが始まって以来、カエルが歌う曲を取りあげるのはこれがはじめて。きっとこれが最初で最後だ。で、登場するのは、敬愛するジョン?レノンに並ぶ偉大なカエル、そう、カエルのカーミット(Kermit the Frog)である!

研究室にいつもいるカーミット
研究室にいつもいるカーミット

 まあ、正確には、このカーミットをはじめとした『セサミ?ストリート』の生みの親であるジム?ヘンソン(Jim Henson, 1936-90)がその声を担当しているのだけれど、とにかく、カーミットは尊敬すべきカエルなのだ。かつて一度、英国オックスフォード大学で講演もしているくらいだ。

カーミットの「レインボー?コネクション」米国盤
カーミットの「レインボー?コネクション」米国盤
$1.75という当時の値札が付いている
レコード盤はカエルの緑色

 カーミットが歌うのは、映画『マペットの夢みるハリウッド(The Muppet Movie)』の主題歌であり、ビルボード?チャートで最高25位にもなった“Rainbow Connection”という1979年の曲。

ジャケット裏面
ジャケット裏面
映画に登場するキャラクターが勢揃いしている

 バンジョーで弾き語るカーミットがとにかくかわいいのです。

信じる力

 この曲でカーミットは、虹、星、希望という言葉の連想を起点にして、信じる力の大切さについて説いている。曲を聴けば、ただの憎めないかわいいカエルと見せかけて、実は、非常に深い哲学的思考を備えた偉大なカエルなのだということがわかるでしょう。

 Why are there so many songs about rainbows?
 どうしてこんなたくさん 虹の歌がある?
 And what’s on the other side
 あと、虹の向こうに何があるって歌とかも
 Rainbows are visions, but only illusions
 虹は未来図、けど、ただの幻想
 And rainbows have nothing to hide
 虹はそれ以上でもそれ以下でもない

 So we’ve been told and some choose to believe it
 そう教わってきたし、そう信じてる人もいる
 I know they’re wrong, wait and see
 でも間違いだよ そのうちわかるよ
 Someday we’ll find it
 いつかボクたちは見つけるよ
 The rainbow connection
 虹のつながりを
 The lovers, the dreamers and me
 恋人たちと、夢見る人たちと、そしてボクとのつながりを

 いつか、虹のつながり(the rainbow connection)が生まれ、ステキな世界が広がっていくといいな、そんなカーミットの願いが歌われてこの曲はスタートする。虹は、ただの光の屈折現象に過ぎないとかんがえる人もいるし、そこに特別な意味を見いだす人もいる。もちろん、カーミットは後者。カーミットらしく淡々とほのぼのと、けれど説得的に、この願いの理由が次に歌われる。

 Who said that every wish would be heard and answered
 誰が言ったんだろう 朝の星に願いをかければ
 When wished on the morning star?
 願いは聞いてもらえるし、叶うって?
 Somebody thought of that, and someone believed it
 それは誰かの思いつきで、それを誰かが信じて
 Look what it’s done so far
 こんな感じになってきたんだね

 虹の次に登場するのは朝の星である。星に願いをかける風習も、最初は誰かの思いつき。けれど、それが人を動かす大きな力になるのなら、十分に効果のある行動だと言えましょう。

 What’s so amazing that keeps us stargazing
 すごいのは、それでボクたち、星を眺めつづけてるんだ
 And what do we think we might see?
 それで、ボクたちは何を見つけると思ってるんだろう?
 Someday we’ll find it
 いつかボクたちは見つけるよ
 The rainbow connection
 虹のつながりを
 The lovers, the dreamers and me
 恋人たちと、夢見る人たちと、そしてボクとのつながりを

 All of us under its spell
 ボクたちみんな 呪文にかけられてる
 We know that it’s probably magic
 きっとそれは魔法なんだよ

 呪文は、よく言えば「魔法」であるとカーミットは言う。なにかを信じることが持つ力の大きさを知っている点では、カーミットはカエル界のジョン?レノン、この曲はカエル界の「イマジン」と言っても過言ではない。

 Have you been half asleep
 ウトウトしてるときに
 And have you heard voices
 声を聴いたことはある?
 I’ve heard them calling my name
 ボクは自分の名前が呼ばれるのを聞いたよ
 Is this the sweet sound that calls the young sailors?
 これって 若い船乗りを呼ぶ誘惑の声?
 The voice might be one and the same
 あの声と同じものなのかも
 I’ve heard it too many times to ignore it
 ボクはそれを無視できないほど何度も聞いたんだ
 It’s something that I’m supposed to be
 そんなふうにボクはなるべきなんだ

 この「若い船乗りを呼ぶ誘惑の声(the sweet sound that calls the young sailors)」にピンと来た方もいるかもしれない。これは、船乗りを美しい歌声で誘惑したあげく、水底に沈めてしまうギリシャ神話の半人半鳥セイレーン(Siren)への言及である。英語で“Siren Call”といえば、潜在的な危険をはらむ魅惑的な誘いのことだ。

誘惑するロゴ
誘惑するロゴ

 ちなみに、身の回りでもっとも身近なセイレーンといえば、シアトル発のあの珈琲屋さんのロゴである。19世紀アメリカ文学の名作、メルヴィルによる『白鯨(Moby-Dick; or, The Whale)』の登場人物の1人、コーヒー好きの航海士スターバック(Starbuck)からの連想が、お店のインスピレーション源というのは知られた話だ。

 Someday we’ll find it
 いつかボクたちは見つけるよ
 The rainbow connection
 虹のつながりを
 The lovers, the dreamers and me
 恋人たちと、夢見る人たちと、そしてボクとのつながりを

 カーミットが聞く声、それは危険な誘いかもしれない。けれど、夢を追うときには、危険や困難は付きもの。危ないからといって、夢を追わないという選択はないのだ。ビビる心を夢を信じる力が上回らなきゃ、何も達成できないよ、という熱い情熱を秘めたカエルのカーミット、やっぱり偉大である。

カーミット
カーミット

 そろそろ山形も梅雨の季節。けれど、雨のあとには虹が出る。梅雨はうっとうしいとはいえ、雨が降らないと美しい虹も見ることはできないのだ。そんなことをカーミットは再確認させてくれる。

 それでは、次の1曲までごきげんよう。
 Love and Mercy

(文?写真:亀山博之)

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亀山博之(かめやま?ひろゆき)
亀山博之(かめやま?ひろゆき)

1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。

著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。

趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。