完売御礼
プロコル?ハルムの「ハンバーグ」を取りあげた前回のコラムでは、食べ物のハンバーグではなくホンブルク帽のことを歌っているのだという、日本における英語その他外国語圏文化受容の様相に関する重要な指摘がなされた。
にもかかわらず、そのことはほぼ話題にもならず、代わりに、学食とのコラボ企画の「ハンバーグ?ランチ」だけは連日、発売時刻とほぼ同時に売り切れという盛況ぶりであった。この場を借りて感謝申し上げます。ともあれ、前号のひと騒ぎはこのコラムの存在意義をかんがえるよい機会となったことに違いはない。知的好奇心をかきたてるためには、まず食欲をかきたてることが肝要なのだ。ということで、今後は美味しそうなコラムの執筆に努める所存である。美味しい学食と本コラムのコラボ企画第2弾は、秋頃に予定しております!
空からの啓示
いよいよ前期の授業が終わりを迎え、夏休みである。だからといってわたしは暇になるわけではない。山積する仕事にとりかからなければならない。夏芸大の講義の準備もそれに含まれる。「英語とロック!かんがえるジュークボックス講義編」が8月28日、午前?午後に開講予定である。何かこう、空から稲妻で石版に啓示が刻まれるかのような衝撃的な講義を、とかんがえてはいるのだが、そんなことができるのはデヴィッド?ボウイが歌う「スターマン」くらいだよな???なんて思ったりしながら、あれこれ調べものをしているところである。
というわけで、今回はデヴィッド?ボウイ(David Bowie)、1972年発表の「スターマン(Starman)」をかんがえる。
滅亡に向かう地球に暮らす人々に向かって、宇宙からのメッセージを伝えるのがスターマンである。そのメッセージは、ラジオの電波に乗せて届けられる。
Didn’t know what time it was, the lights were low
何時なのかわからなかったけれど、光はか弱い
I leaned back, on my radio
ぼくはもたれかかっていて、するとラジオから
Some cat was laying down some rock ‘n’ roll
どっかの男がロックンロールを流して
”Lotta soul,” he said
「ありったけのソウルを」と言っていた
Then the loud sound did seem to fade
そうしたらデカかった音は消え始めて
Came back like a slow voice on a wave of phase
電波に乗せて穏やかな声みたいなものが聞こえてきた
That weren’t no DJ, that was hazy cosmic jive
それはラジオのDJじゃなく、かすんだ宇宙からの波動だった
There’s a starman waiting in the sky
空でスターマンが待っているぞ
He’d like to come and meet us
こっちにきてぼくらと話がしたいみたいだ
But he thinks he’d blow our minds
けど、ぼくらをビビらせてしまわないかと思ってる
There’s a starman waiting in the sky
空でスターマンが待っている
He’s told us not to blow it
彼はダメにしちゃだめだと警告したんだ
’Cause he knows it’s all worthwhile
大事なことだと彼はわかっているから
He told me
ぼくにこう言ったんだ
Let the children lose it
子どもたちにはそんなものにしがみついていないようにさせなきゃ、と
Let the children use it
むしろそれを使いこなすんだ、と
Let all the children boogie
すべての子どもたちを踊らせてあげなきゃ
混線してザーザーいうラジオを調整していたら、空からの啓示が聞こえてくる、みたいなシチュエーションはなんともSFチックである。世間が不穏だったりすると、UFOがブームになるそうだ。UFOの目撃情報の数と政治不安の高まりは比例するというのだ。1970年代半ば、ベトナム戦争末期の頃、ウォーターゲート事件などもあってアメリカ社会は混沌としていたが、オノ?ヨーコと別居中だったジョン?レノンも1974年のアルバム『心の壁、愛の橋(Walls and Bridges)』のレコードのインナーに「1974年、8月23日、9時、UFOを見た」とわざわざ書いている。地上での行き詰まりを打破してくれそうな最後の希望は空にある、ということになるのだろうか。少なくとも、天上からの声は、これまでにはない「お導き」となってくれそうな響きの効果を持つ。それを計算尽くで「スターマン」に地球人の進むべき道を啓示させるデヴィッド?ボウイ、大変な策略家である。
“Boogie”することの重要性
曲が進行するにつれ、スターマンが伝えたいことがより明らかになってくる。これは旧体制への訣別の歌なのだということがいよいよわかる。古い頭では未来に対応できないよ、というアドバイスなのだ。
I had to phone someone so I picked on you
誰かに電話しなきゃと思って、きみを選んだんだよ
Hey, that’s far out, so you heard him too
ねえ!すげえよ きみもスターマンを聞いたんだね
Switch on the TV, we may pick him up on channel two
テレビをつけてみてよ、チャンネル2で見れるかもよ
Look out your window, I can see his light
窓の外を見てみて スターマンの光が見えるよ
If we can sparkle he may land tonight
ぼくらもキラキラ輝けたら 今夜スターマンが地上に降りてくれるかも
Don’t tell your poppa or he’ll get us locked up in fright
きみのパパには内緒だよ ビビってぼくらを閉じ込めちゃうからね
「パパに言っちゃだめ」というのも、空からの啓示に特別な意義を持たせる点で非常に効果的である。ここでのパパは、古い価値観の象徴であるのは明白だ。旧世界にしがみついて生きる人々が、新しい価値観を体現する人々の登場に恐怖を覚えるのは常だ。ロックに合わせて”boogie(踊る)”して新たな世界に飛び出すことができるのは、それにビビらない子どもたちだけなのだ。逆にいえば、大人であろうと、“boogie”できる者は新世界に行く子どもになれるのだ。あなたはどうなんだい?とスターマン、いや、デヴィッド?ボウイがわたしたちにそう問いかけているようである。
口先だけ立派で、濡れ手にアワのモンキービジネスにいそしむ大人ヅラした連中は、永遠に地上に縛られたままだ。踊る子どもたちは次の世界へとスターマンとともに飛び立つのだ。そもそも、大人になる、とは一体どういうことなのだろうか。誰かに言われてやりたくもない仕事にとりあえず就くなんて馬鹿げている。スターマンの教えは、心が踊る(boogie)ことができる大人にならなきゃいけない、ということだ。仕事になんか就くな、というのではない。心が“boogie”するような、そんな仕事をしているのが本当の大人なのだ。スターマンがこの曲でそう教えてくれている。
夏芸大
ビエンナーレとともに、まもなく開講される「夏芸大」は受講生を募集中でございます。わたしが担当いたします「かんがえるジュークボックス講義編」では、脳内が“boogie”する内容を用意してお待ちしております!
講義内容は主として、わたしが愛してやまないザ?ビートルズを中心に、わたしの専門分野である19世紀アメリカ文学史のなかに見られるロックな思想と作品などを扱います。ロックをつうじて、西洋と東洋、自己と世界、他者と愛、そんな壮大かつ身近で普遍的な問題に取り組みます。当日は、アナログレコードでの曲の鑑賞、画像や動画の補助教材の鑑賞、課題?演習プリントでの英語力およびロックな教養の強化などなど、本学でわたしが担当している実際の英語の授業の一端が垣間見られる構成で講義を進めます。そして、受講後にはすっかり心身ともにロックなひととなっている!そんな講義を展開予定!ぜひお気軽にご参加ください。
受講してくださった方にはささやかですが記念品も用意してございます。今回一新したこのコラムのロゴの入った何かを準備中!なお、新ロゴの作成には、読者で友人のKさま、グラフィックデザイン学科のあんさんとふうかさんにご協力いただいております。感謝!
それではまた。夏芸大で実際にお目にかかりましょう!はい、次の1曲までごきげんよう。
Love and Mercy
(文?写真:亀山博之)
BACK NUMBER:
第1回 わたしたちは輝き続ける~ジョンとヨーコの巻
第2回 バス停と最新恋愛事情~ザ?ホリーズの巻
第3回 孤独と神と五月病~ギルバート?オサリバンの巻
第4回 イノセンスを取り戻せ!~ザ?バーズの巻
第5回 スィート?マリィは不滅の友~フレイミン?グルーヴィーズの巻
第6回 ツンデレな愛をかんがえる~ザ?ビートルズの巻
第7回(芸工祭直前edition) ゲットしに来て!~バッドフィンガーの巻
第8回(芸工祭報告edition) 浦島と美女をめぐる仮定法~ブレッドの巻
第9回 夢見る人~ニッキー?ホプキンスの巻
第10回 脱構築 DE ビートルズ~ザ?ビートルズ?その2の巻
第11回 年末年始はファンキーに!~イーグルスの巻
第12回 自転車でいこう~クイーンの巻
第13回 卒業の先に~サイモン&ガーファンクルの巻
第14回 船出のとき~ロッド?スチュワートの巻
第15回 恋の縦横無尽~クリストファー?クロスの巻
第16回 田舎へ行こう~キャンド?ヒートの巻
第17回 ハンバーグ?ランチはいかが?~プロコル?ハルムの巻
亀山博之(かめやま?ひろゆき)
1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。
著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。
趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。
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