文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

千田真尋|和紙素材における過酸化水素漂白法の有効性に関する研究
岩手県出身
杉山恵助ゼミ

 過酸化水素漂白は、紙の変色やシミの除去に用いられる処置の一つである。西洋では文化財修復の一環として一般的に使用されているが、日本の装潢文化財では漂白処置はあまり実施されていない。本研究では、和紙にも過酸化水素漂白を適用できるのか、また長期保存する上で影響を及ぼす可能性があるかを検証することを目的とした。特に、漂白が紙の強度や経年劣化に与える影響について明らかにすることを試みた。
 本研究では、漂白の影響を3つの観点から検討した。①紙の種類による影響を比較するため、和紙と洋紙のサンプルを用意し、漂白と加速劣化処理を実施した。②過酸化水素の濃度(3%、5%、10%)を変えて漂白を行い、濃度による漂白効果や紙のダメージを評価した。③漂白後の中和の有無が紙の状態に与える影響を調査し、中和処理の必要性を検討した。サンプルには、機械漉きおよび手漉きの和紙と洋紙、さらに古書の紙片を含む7種類を用いた。実験手順として、炭酸カルシウム溶液による洗浄後に過酸化水素水で漂白し、再度炭酸カルシウム溶液で洗浄、飽和水酸化カルシウム溶液で中和処理を施した。最終的に加速劣化処理を行い、漂白の影響を評価した。漂白効果は色差計を用いたLab*値の測定により分析し、時間経過による変化も比較することを試みた。
 漂白後の測定では、全体的に白色度は向上したものの、過酸化水素濃度と漂白効果の間に明確な相関関係は確認できなかった。(図1)特に、10%濃度での処理が必ずしも最も効果的とは言えず、サンプルによっては5%濃度の方が高い効果を示す場合もあった。また、加速劣化処理後の結果を比較すると、漂白を行ったサンプルでは若干の変色が見られたが、顕著な劣化や紙の損傷は確認されなかった。さらに、中和処理の有無による明確な違いも今回は観察されなかった。一方で、一部のサンプルには漂白工程で発生した気泡によると考えられるふやけや剥離が発生した。(図2)
 本研究では、過酸化水素漂白が和紙と洋紙に与える影響を検証したが、過酸化水素濃度や中和処理の有無による明確な傾向は得られなかった。今回のこの結果を受けて、実験工程において、漂白処理の方法や加速劣化処理の時間をはじめとする実験手順の見直しが必要であると考える。今後は、漂白後の紙の耐久性やpHなどの測定を行い、多角的な分析を行うことで、和紙における過酸化水素漂白の適切な適用条件を明らかにすることが求められる。

1.漂白?加速劣化処理を行ったサンプル

2.漂白工程中に剥離が発生したサンプル