文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

森谷美月|日本における油彩画修復の研究 -補彩を中心とした考え方とその変化について-
山形県出身
中右恵理子ゼミ

 油彩画が受ける損傷の一つとして、絵具の剥落により絵画の一部分が欠損し、描写の識別が不可能となることがある。そのような欠損箇所を補う修復処置として補彩が施される。この補彩という処置は、美観を回復させる目的のもとで、新たに手を加える処置である。また今後の作品の姿を決めてしまう処置でもあることから、より修復概念を重視した修復処置であると考える。修復概念は、海外などでは歴史的に見ても議論が活発に行われているが、西洋絵画修復の歴史の浅い日本では西洋絵画の修復についての日本独自の考えや、特徴があるのか疑問に感じた。そこで本研究では、日本で行われている油彩画の修復について、作品の外観に影響を与える補彩に焦点を置き、調査、考察を行い、日本ではどのような考えのもとで補彩を行っているのか明らかにすることを目的とする。
 本研究は文献調査によって行った。修復家の著書などから近現代の修復概念、日本の油彩画修復の歴史、修復報告書などの実際の修復事例から、補彩を中心に、補彩材料や補彩方法について調査を行い、日本における補彩の考え方について見ていった。
 調査の結果、日本で行われている補彩には、日本独自の理論のような考えがあり、それに基づき行っているとは確認できなかった。日本においては、修復家それぞれが海外など自身が学んだ知識に基づいていることや、依頼者の要望、絵画の特徴などの、異なる状況に合わせつつ、個々の修復家が各々の考えに基づいて行っているという姿が見てとれた。補彩材料について、旧補彩に油絵具が使用されていた事例がいくつか見られたが、近年では可逆性を持つ材料が使用されることが修復事例の調査を通してわかった。また補彩の方法について、今回の調査の範囲だけでは日本の補彩方法とは言い切ることはできないが、理論化された方法による補彩はほとんど行われず、周囲の色調に合わせた補彩が行われていることがわかった。今後も修復、補彩が施される背景には、それを行う上での何らかの理念は重要であると考える。しかし、それは何か体系化された一つの考えに縛られ従うのではなく、修復家ごとに、作品の特徴ごとに、それぞれ異なる考えをその都度持って行われることが日本の油彩画の補彩、修復のかたちとして今後もあり続けるのだろうと本研究を通し、考える。