角田玲海|現代日本画における金属箔の劣化について
群馬県出身
杉山恵助ゼミ
現代作品は物体そのものだけでなく、制作における作者の意図や作品のコンセプト、展?される空間や制作?為など、保存するべき要素が幾つも考えられる。作者が作品にどの様な姿を求めているのか、鑑賞に耐える美観と美術作品の機能についても考える必要があり、作品の保存方針を決める上で、作家の意思が需要になってくる。
本研究論?を書くにあたって、現代?本画作品に使?される?持体や?属箔などの素材、作品保存への意識などを調査するため、本学日本画コースの学生42名と教員4名にアンケートの協力を頂き、結果を参考に2種類の試料を作成した(図1)。金属は、高温高湿度環境下において腐食が進行する恐れがある。箔を使用した作品が保存環境によりどのように変化するのか調査するため、恒温恒湿器を使用した強制劣化実験と屋外曝露試験を行った。恒温恒湿器は温度80℃湿度65%に設定し、22日間劣化させた。屋外暴露試験は、直射日光が当たる屋根のある場所で30 日間行った。より変化が現れたのは、恒温恒湿器を使用した劣化実験である。アルミ箔、銀箔、錫箔は金属箔自体の大きな変化は見られなかったが、真鍮箔、銅箔、色彩箔は、劣化前に比べて「色の変化」「剥離?剥落」「光沢(質感)の変化」が確認できた。銅は湿度に弱く、?湿度環境下では短期間で変?が進むことが?献調査で明らかになった。また、?彩箔の実験前試料の蛍光X線分析結果では、主な原材料である銅のほかに、硫?とカルシウムが検出されたことから、これらの成分を使?した?法で銅を変?させ、特有の?味を引き出していると推察した。真鍮箔は合?であり、純粋な素材でないため、他の素材に?べて劣化しやすいと考えられる(図2)。劣化実験によって?属箔に?られた変化は、劣化だけでなく作品の新たな表現としても捉えることができる。しかし、作品のその後の状態について考えずに制作を?うということにリスクが?じることも頭に?れておかなければならない。
研究のまとめとして、作品をできるだけ制作された当初の状態に保ち、意図しない損傷を防ぐためには、制作者側が作品の保存に対する意識を高め、使用する描画材料や技法を選択する必要がある。それだけでなく、保存修復に携わる方々にも、作品の制作された背景や意図、作者の表現を汲み取り、適切な保存修復処置を行うことが求められる。本研究が、制作と保存という二つの立場の架け橋になることを切に願う。