文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

史跡鷲ノ木遺跡環状列石の温度環境についての研究
松田玄
山形県出身 
保存科学ゼミ

本研究が対象とする鷲の木遺跡は、縄文時代後期の環状列石がある遺跡である。この遺跡は、冬季の凍結?融解による劣化や、遺跡の下部に建設されたトンネル(図1)上部のコンクリートの温度が低下することにより、遺跡下部の土が凍結し土遺構に影響があるのではないかと懸念されている。本研究ではこの遺構がどのような温度環境に置かれているのかを調査し、現在の対策が凍結?融解による劣化にどう影響しているかを考察する。また、この遺跡下部の温度低下はどれくらいになるのか、また凍結の深さはどれくらいになるのかを考察することで、今後の遺跡保存の在り方を検討する。

現在、鷲の木遺跡では温度変化による凍結?融解を防ぐために2重の保護シートで遺構を覆っている。鷲ノ木遺跡の環境測定データを用いて、この保護シートが凍結劣化に対して有効であるか考察した。環境測定には文化財保存修復センターが測定した2017年~2018年までの気象観測データと森町のアメダスデータ、タイムラプスカメラの映像を用いた。環境測定の結果(図2)から、積雪と保護シートの効果によって石材の温度変化は小さくなっていると確認できた。この結果から冬季養生として行っている2重のシート設置は、環状列石の保存に関して有効に働いていると考えられる。

 遺構土の温度低下、凍結の深さを調べるために遺跡下部の温度解析を行った。温度解析にはGeoslope社のTEMP/Wを使用した。温度解析は2017 11月1日~2018年4月1日まで行った。凍結の開始は2017年11月19日で、そこから徐々に凍結線の位置は高くなり、2018年3月1日(図3)には凍結の深さが最大となる120 cm となった。ボックスカルバートの厚さは、70 cmであるため、ボックスカルバートの上の遺構土の凍結深さは、50 cm と推定された。このため、遺構土の凍結による影響は小さいと考えられる。

 鷲の木遺跡が環状列石の凍結劣化に対して現在行っている対策は保存に関して有効でると考えられが、積雪の少ない状況で、気温が急激に下がると、環状列石表面の温度は、0℃以下になるため、石材の凍結劣化を完全に防ぐことは難しいと考えられる。そのため、今後も定期的に鷲の木遺跡の温度環境を観測し調査を継続する必要がある。

1トンネル断面写真

2 表面温度比較図(2017年11月~2018年5月)

3遺跡下部の温度分布(2018年3年1日)