美術科 工芸コースDepartment of Fine Arts Crafts

[優秀賞]
細谷実咲|The most beautiful’s
千葉県出身
佐々木理一ゼミ
H:55 ~ 65 × D:100 ~ 130 × W:100 ~ 130 mm 漆/麻布/和紙/鉛/金属粉/鮑貝/人工オパール

人は内に様々な側面を抱え、時にはその多様さに戸惑い矛盾し、否定して傷ついてしまう。だがその矛盾する多様な側面は自身の魅力の一つだ。表情は異なっても同じ花であるように、様々な側面があっても一人の自分だ。冬の寒さを乗り越え咲く椿の一つひとつが美しいように、自身と向き合い悩みながら生きていく私達が持つ側面の一つひとつが魅力なのではないか。多様な表情のある漆ならば、それぞれの美しさを体現できると思った。


佐々木理一 准教授 評
「もの」には力がある。自身が生きている現実を「美しさの表現」として賞賛した作品。人生で拾い集めた様々な葛藤が1つの結晶になり、純粋な心がエネルギー源となって漆の素材を存分に発揮し造形されている。椿の花の一生を通じて、生きているリアリティーを切実に受け入れ、自他ともに認め合っていくことの人間の生き様が作品に反映されている。そして「親に感謝、恩返しをしたいから社会で生きていけるよう努力したい」、当然のことのようだがこの凛とした姿勢がこの作品の深層に存在している。
 4年間の学びは短い。まだ未熟な技術と表現力だが一つ一つ丁寧な仕事に熱量が感じられる。多くの先生の声を素直に聞き入れ、大学の学習を活かした成果でもある。漆造形の長い丹念なプロセスの上で、繊細な身体能力の鍛錬と妥協を許さない精神力は自身への挑戦でもある。生き方そのものが作品に変換されていき他者に共感を与えていく素敵な作品である。