Document 2020

［優秀賞］
江尻百花｜点火式
埼玉県出身　
3500mm×8600mm　アクリル絵の具、インク、木炭、ペンキ、紙、木枠、パネル

こども時代に何気なくかけられた言葉は、私に十年来の身体的なコンプレックスを植え付けた。小学校時代の記憶を今でも反芻してしまい、思考がとらわれる。過去から抜け出せないというのは地獄だ。決して誇張ではない。生きていく中で自分の内に留めておける物事の数が限られているのなら、いらなくなった過去は焚き上げて燃料とし、空いたスペースには新しい出会いを迎えたい。地獄から抜け出し、次へ進むための儀式として制作した。

村上 滋郎　専任講師　評
　3年生だった彼女の最初の印象は、真面目でクール。作品のプレゼン準備は完璧で隙がなく、センスもいい。いわゆる欠点のない学生という印象だった。しかし、３年生の夏頃から続けているドローイングの数を見て、その印象は大きく変わった。「センスは知識」という言葉があるが、相当な情報のインプットやリサーチが土台になっていることに気づいたのである。絶え間ない努力と熱量に裏付けられたセンスだったのだ。
　3年生以降、江尻は身体?容姿のコンプレックスや、メディアなどによるルッキズムの助長に対するアンチテーゼをテーマに作品を展開してきた。情報技術の発達は、常に人類へ道徳的問題を突きつける。情報を操作?コントロールできる側が、使用する側をコントロールし搾取するような、非道徳的な行為がまかり通っている社会に対する痛烈な「No」を、江尻は作品として昇華させた。自身の記憶と経験を燃料としたお焚き上げだとする本作は、炎が中央にあることで、より強い火力のエネルギーの創出を実現している。壁面全体をエネルギッシュに使いながらも統制された本作は、非常に完成度の高い作品となった。”