油の乾燥における不飽和脂肪酸の影響
髙橋由
岩手県出身
西洋絵画修復ゼミ
西洋絵画に用いられる画材の一つに油絵具が挙げられる。油絵具は主に色材である顔料と、結合剤である乾性油から構成されている。この乾性油は文字通り乾く性質を持つ植物性の油である。乾く性質を持つとは言うものの、油絵具の乾燥には一定の期間を要する。そのため、太陽光に晒す、加熱するといった油自体を加工する歴史が古くから存在する。現在ではシッカチーフと称する画溶液を絵具に混合することで乾燥を早める工夫がなされている。それでは果たして、一般的に油絵具に使用される油が最も固化しやすい油なのだろうか。わざわざ加工するまでもなく、より乾燥が早い芸術分野に使用できる油があるのではないか。このような疑問から本研究では、油絵具の固化の基本的なメカニズムを理解するとともに、乾性油の条件に合う油および加工した油を比較し、なぜ油絵具において限られた油が使用されているのかを考察した。
油の乾燥は酸化重合反応によるものである。この酸化反応は油の不飽和脂肪酸の含有量によって速度が変化する。乾燥性を上げるには、いかに酸化を早めるかに依存し、また油を加工しない場合は個々の油が元来持つ不飽和脂肪酸量に関わると考えた。よって一般的に油絵具で使用する植物性油と、より不飽和脂肪酸量の多い動物性油である魚油との固化の早さを比較した。油のみ、油+鉛白、油+鉛白+ココナッツオイルの3パターンのサンプルを
比較の結果、市販乾性油は乾燥したものの、魚油は未乾燥のままであった。実験開始前においては、「動物性油は植物性油より乾燥を促進する要因が理論上多いことから、乾燥性が高いだろう」と予測を立てていた。しかし3パターンのサンプル全てにおいて事前の予測や理論とは異なる結果となった。今回の結果は、動物性油よりも植物性油の方が乾燥性が高く作業性もよいことから、美術世界において植物性油が選択されてきた証明として考えられる。反面、実験において様々な課題も見えてきた。当実験をベースとして、実験を改善していくことで、より納得のいく結果が得られるものと考える。