[最優秀賞]
山形県白鷹町蚕桑地区「大日如来堂」の活用と継承
熊谷安莉沙
山形県出身
立体作品修復ゼミ
1224年頃の創建と伝承される「大日如来堂」は山形県白鷹町蚕桑地区の森林に所在する地域文化財である。管理主体は蚕桑地区住民だが、現在、大日如来堂を知る住民は高齢者に偏っており、次世代への充分な継承がなされていないため、近い将来存在の忘却が危惧される。そこで本研究では大日如来堂の継承を目的として現状調査及びワークショップを実施し、地域文化財の必要性及び価値を分析、活用及び継承方法を考察?提示する。
「断時形保存活用」の考え方に基づくと地域文化財は世代を超えて存在するものであり、需要が低下したら不必要になる「消費財」では無いと考察できる。地域文化財の価値としては①地域文化を証明し独自性を保持する、②郷土への愛着や誇りの根源となる、③地域内交流を増加させコミュニティを存続させる、④観光振興と地域活性化に役立つという4点が考えられる。また、日本人の宗教への関わり方の特徴から、継承を訴求するには「現世利益」が有効だと考察する。
以上を踏まえ2020年10月24日に蚕桑地区コミュニティセンター文化祭にて大日如来堂の継承を目的とした子ども向けワークショップを2つ実施した。風習「オサメガキ」をモチーフにし、習字で書いた願い事を大日如来堂に飾るワークショップと、かつて大日如来堂前で開催された相撲大会をモチーフにし、折り紙の力士を用いてとんとん相撲をするワークショップを実施。ワークショップを通して、蚕桑小学校の学校長をはじめ合計42名の参加者に大日如来堂の歴史や文化を紹介できた。蚕桑センター報に本ワークショップの記事が掲載されたことで、住民全体への大日如来堂紹介に繋がった。
地域文化財の継承には3段階のアプローチが必要だと考える。第1段階は地域文化財を知る地域住民の記憶を記録すること、第2段階は地域文化財を知らない地域住民に向けた周知活動、第3段階は地域文化財を地域住民の生活に組み込むのが理想である。地域文化財の継承は地域住民が主体となって行なう必要があるが、継承には少なからず労力と費用がかかる。これを容認したうえで継承してもらうには、地域住民に地域文化財の必要性と価値を理解してもらう必要がある。そのため、白鷹町教育委員会と蚕桑地区コミュニティセンターに本論文を提出し、今後の継承活動の一助とする。地域文化財は地域住民によって活用?継承されながら新たな歴史?文化を紡ぐ存在である。
柿田 喜則 教授 評
私の地元にはこんなお祭りがある!こんな風習がある!など、地元の文化を他者に伝える時には、いつの間にか自身の誇り(郷土愛)として話していることありませんか。地域文化財にはそんな力があり、我々のアイデンティティの根源と言えます。
彼女の卒業研究は授業の一環で調査に訪れた大日如来堂で地域文化財が抱える問題に直面したことを契機としています。問題の解決方法として地域文化財の価値及び必要性の分析から地域の文化祭に参加。ワークショップを開催し、そこでの成果をもとに今後の活用と継承を提案しました。この実践を伴った一連の研究過程が、他の教員からも高い評価を得ました。特にワークショップでの取り組みは地域の人々にとっても地元の文化財に目を向けるよい機会となり評価できます。大日如来堂のような地域文化財は全国の各地域が抱える問題でもあり、彼女の研究成果は今後の地域文化財の活用と継承を考える上での道標となるでしょう。